放送日:2019年5月17日

「いい加減なアカリ」

 いい加減なアカリについてのお話をさせて頂ければと思います。
 人が明るさを感知する視覚には、個人差があります。同じ照明に照らされた空間であっても、ある人は「丁度良い明るさ」と思い、またある人は「少し暗いかな」「少し明る過ぎるな」などと、見る人によって明るさの感じ方が多少異なります。それら明るさの感じ方は、年齢や生活環境、また空間の広さや間取り、内装材の反射率などにも影響されます。
 このような、人の感覚と実態のズレを最小限に抑えるために、JISでは明るさを照度=ルクスという単位で数量化し、空間と生活行為ごとに細かく推奨照度を規定しています。
 その推奨照度はどういったものかというと、例えば、リビングで読書をしたい時は、300~750ルクスの照度が必要ですが、団欒だけであれば、もっと低い150~300ルクスで良いといった具合になります。
 しかしながら、これらの推奨照度の基準を間違った解釈で捉え、住宅照明に取り入れてしまうと住みづらく、居心地の悪い空間になってしまうケースがあります。
先日、ある知人から新築された住宅のリビングダイニングを明るくしたのに、なぜか居心地悪く、どうにかならないかという「あかり」の相談がありました。
 そこで現地に行きお部屋を確認してみると、リビングダイニングが一体となった広めな空間で、内装は壁・天井が白に統一され、そして照明は天井にダウンライトだけがシンプルに並ぶ空間でした。なぜ?居心地が悪いと感じられているのか?・・・天井のダウンライトを点灯すると原因がわかりました。
 天井に万遍なく均等配灯されたダウンライトですが全てが挟角配光のもので、被照射面となる床面も濃い色のために反射率も悪く、特に視覚効果の高い鉛直面に光が届いていないために、見た目に陰気な雰囲気となるあかるさ感の仕上がりでした。知人は当然、施工者に暗さのクレームを伝えたのですが、平均照度の数値では明るさは十分です。と言い切られたようで・・・照明に無頓着な残念な施工者と言わざるを得ません。
 オフィスや学校、店舗など、不特定多数の人が集まる均整のとれた明るさが必要な場所と違い、住宅照明においては、一人ひとりの視覚や生活に合った明るさを創ることが重要で、難しくもあります。だからといって、照明基準を盾に、この先長い時間生活を共にする照明を「いい加減なアカリ」にするのはいかがなものでしょう。
 
 確かに日本では、ただ明るい照明が良いと考える人が多い現状はあり、暗さのクレームに気を配るのも理解はできます。しかし明る過ぎる環境は、長い時間の中で無意識に「疲れ目」や「視力の低下」、そこから生じる「ストレス過多」となる一因となります。
 生活する上で、ある程度の明るさは必要でしょう。しかし、今のその明るさは本当に一人ひとりに合った丁度良い明るさなのでしょうか?
 調光でワット数を下げてみたり、よく視覚に入る壁面を照らして明るさを感じたり、天井照明を落としてスタンドライトに切り替えるなど、適度な暗がりを創ることのできる設備を用意することで、今まで気が付かなかったホッとできる明るさが、発見できるかもしれません。皆さんもそんな「良い(いい)加減なアカリ」を探してみてはいかがでしょうか。