放送日:2018年7月20日

「光の浮世絵師」

 レンブラントという西洋画家をご存知でしょうか?
 レンブラントは17世紀オランダを代表する画家で「光の画家」「光の魔術師」などの異名を持ち、繊細な光と影の描写を巧みに使い、より写実的に活き活きとした作品を数多く残しています。当時の西洋画の中には、光と影を繊細に表現し、明暗を印象的に捉えた作品が数多くあるようですが、日本でも特にこのレンブラントの光の効果を巧みに表現した西洋画の影響を受けた画家も数多く存在します。前にご紹介した小林清親もその一人で、錦絵に西洋絵画の遠近法、陰影法、明暗法といった光で表現する技法で光線画を生み出しました。その彼の活躍した明治時代よりも以前の江戸時代に、実は同じく西洋画の影響を受けたとされ、作品に光を独特に取り入れた浮世絵師がいました。
 そこで今回は浮世絵に光と影を表現した女性浮世絵師「葛飾応為=かつしかおうい」について少しお話したいと思います。

 浮世絵師といえば、神奈川沖の荒波や四季折々の多彩な富士山などを描いた「富嶽三十六景」を代表作に持つ葛飾北斎が世界的にも有名ですが、この北斎の三女(えい)が実は葛飾応為という画号をもつ女性浮世絵師であったことはあまり知られていないようです。
 応為の描く浮世絵には、北斎に「美人画にかけては応為には敵わない」と言わせるほど優れた美人画が多く、作品としては世界に約10点ほどしか残っておらず少ないのですが、
 それらの作品は、女性ならではの繊細なセンスの良さを伺える作風で、特に光の描写に優れています。
 当時の浮世絵は、平面的で昼間のような明るい時間帯を描いたものがほとんどでしたが、応為が描いた「夜桜美人画」は暗闇の中に浮かび上がる桜と女性、灯篭の光、を陰影の濃い表現で美しく表しています。
 星空の下、石灯篭の白い光が傍に佇む歌人の顔や手元、桜を闇の中に浮かび上がらせて着物の裾を灯篭の仄かな光が照らしています。また、夜空の星は白色、紅色、藍色など、5種類程に描き分けた点描となっていて、星の明るさの等級さえも細かく表現しています。
 他にも夜の吉原を描いた「吉原格子先之図」では幻想的な光の効果を、誇張した明暗法と細密な描写により表し、当時の浮世絵にはなかった光の表現方法で描かれています。

 応為はこれらの作品からも西洋画法への関心が深かかった推察され、当時では珍しく平面的な浮世絵に光と影の陰影を美しく描いた「光の浮世絵師」として、現在その才能が再評価されているとのことです。
 多くの西洋画のように光を写実的に表現したものとは違えど、その昔、江戸の時代に西洋画に影響を受けたとはいえ、光を日本独自の美の感覚によって、さらに美しい描写により表現していた絵師が存在したとは驚くべきことですね。