放送日:2022年3月4日

「メラノピック等価照度」

 昨今では、2015年に採択された「持続可能な開発目標 (SDGs)」がメディアで多く取り上げられ、一般にも広く認知されるようになっています。17項目の世界的目標に向けた社会的な取り組みによって、個人や多くの企業がその目標を達成することにより社会的な価値を高める良い切っかけになっています。

 このような評価を認証する制度は他にも多くの分野で存在し、中でも建築の分野での評価・認証制度として、省エネ性能など環境への影響を評価する「CASBEE:建築環境総合性能評価システム」など以前から有名なものは存在します。しかしながら、SDGsのように、広く認知・実行される大きな動きにはなっていないように感じます。

 この「CASBEE」など、建物自体の性能を対象にしているいくつかの評価・認証制度に対して、現在、「人間の健康」に重きを置いた視点で評価・認証する「WELL認証」という制度が2014年に米国で開始され注目されています。
 今では世界58か国に広まり、日本でも5件が認証を取得されている評価・認証制度になります。
 この「WELL認証」の評価システムでは、10のコンセプトをベースとした117の評価項目が示されており、人間の健康に対して、建物や空間がどう貢献されているかの指標としています。・・・では、「人間の健康に良い」と認められる建物や空間とはどんなものなのでしょう?また、WELL認証が広がるとどんな変化が起きるのでしょう?
 
 「WELL認証」の10のコンセプトには、「空気や水」「音」「材料」「温熱快適性」「こころ」「コミュニティ」といった建築の枠にとどまらない視点が示されており、健康に関する最新の医学研究結果が反映されるなど、建物内で過ごす人が健康的であり続ける為の知見が取り入れられています。そしてこの10項目のひとつに「光」があるのです。
 そしてこの「光」の項目で重要視される光の指針に「メラノピック等価照度」があります。「メラノピック等価照度」とは・・・2014年に提唱された「光の量」を表す単位で、ただ明るい・暗いといった場所や行為に対しての照度数量値ではなく、より「サーカディアンリズム(生体リズム)」に影響する目から入る光の量と色温度を定量的に捉えることのできる数値として提唱されています。
 
 以前より、このコーナーでも多くお伝えしておりますが、人の生体リズムは「朝から明るくなり、夜暗くなる」といった太陽光の1日の光の変化に同調することで、そのリズムを正しく刻み、健康的にも優位に働く仕組みが備わっています。
 しかしながら現代人は、太陽の出ている日中も、日の沈んだ夜間においても変わらず、人工照明のもとで過ごすことが多いため、屋外で太陽を浴びている状況と比較すると、日中は光不足で夜間は光を過剰に浴びている傾向にあります。
 
 人は太陽の軌跡に同調した、時間帯による適正な光(※人工照明共)の「明るさ」と「光の色」の情報が目から脳に伝わることで、健康的に優位に働く自律神経系の良いリズムを刻みます。それにより質の良い睡眠を得られるメラトニンが分泌が活発となり、入眠しやすい体質づくりにつながります。その為、もしこれら概日リズムに逆らって過ごしていると、体内リズムの乱れは自律神経系に多く影響し、不眠などの睡眠障害に加え、高血圧や糖尿病など多くの病気を誘発する原因になることが解っています。人の健康の為の「光」を考える時、この体内リズムへの影響を数値的に表す「メラノピック等価照度」は、今まで感覚的な説明にとどまっていた「明るさ」と「光の色」による快適性や健康への影響を、よりロジックに設計者が施主に伝えることのできる指標のひとつになり得ます。

 WELL認証の認可件数も日本で5件とまだまだ少なく、広い認知には至っていませんが、人に優しい光の本質を捉えた「メラノピック等価照度」が広く認知され、活かされることで、間違った光の既成概念をあらため、無駄な照明演出や将来的に不利益となる照明計画を無くしていくことで、より豊かな光環境の広がりを今後も、期待したいと思う次第です。