放送日:2021年12月3日

「寛ぐあかり その2」

 今回も「寛ぐあかり」と題して、皆さんの身近な住宅照明などに照らし合わせながら、寛ぐ空間に設ける「あかり」の使い方や考え方についてお伝えしていきたいと思います。
 普段であれば学校や仕事、家事なども一段落する就寝までの夜の時間帯、多くの方は、リビングなどでテレビでも見ながらゆっくり家族と過ごすなんて時間が、ごく一般的な寛ぐ時間となるのかと思われます。
 そんな夜の寛ぎの時間を照らす「寛ぐあかり」とは、一体どんな「あかり」が必要になるのでしょう?
 
 本来、人が生活する上で最適な光環境とは、長い人類史の中で培われた太陽の動きや明るさに合わせた環境となります。その為、夜間であれば、夕日やわずかな炎のような赤みを帯びた色の光環境の中で過ごすことで、目から入る光の情報が脳に伝わり、夜になったな、では心身を休めようといった具合に、自律神経系のバランスが整えられて、心も体もリラックスしようとする働きが人には備わっています。この事から考えると本来、夜間の寛ぎの時間に最適といえる「あかり」には、適度な暗さが必要であるといえます。
 しかしながら、昼も夜も明るい電灯照明の環境に慣れてしまっている現代人にとっては、このような光環境が暗いと感じてしまうのかもしれません。
 例えば、ホテルに泊まられた際、少し暗いなと感じられた経験を持つ方も少なくないと思いますが、実際には、スタンドライトやブラケットライトなど複数の照明によって適所に必要な明るさが得られるようになっています。しかし多くは、普段の明るさとの差が大きく、慣れない環境の為か、暗いという印象だけが残ってしまうのではないかと考えます。
 一般的な日本のリビング照明は「1室1灯」といわれ、大きなシーリングライトが1つあるか、複数のダウンライトが天井に設けられ、その1種類の照明によって部屋全体を万遍なく照らす形がほとんどと思われます。ただ寛ぐだけでなく家事やお仕事、お子さんの勉強など、なんらかの作業に使用されることの多い日本のリビング空間では、このような全般的に照らす照明が好まれるのかもしれません。しかしながら、このままでは本来の「寛ぎ」に最適な「あかり」として考えると正反対な光環境と言わざるを得ません。
 先程、ホテルの照明を例にあげましたが、寛ぎを重視する空間では複数の照明が適所に設置されています。これら複数の照明によって適度な陰影も生まれ、雰囲気も良くなります。しかし、実は雰囲気を良くするだけでなく、光の重心(光源の高さ)を天井から下げることで、人が本来、落ち着きを感じ寛げる空間を「あかり」で演出しているのです。