放送日:2021年11月12日

「日本の“あかり”文化を考える」

 衣・食・住を問わず現代日本の生活様式は欧米化しております。この衣食住の「住」にあたる建築においても、日本古来の建築様式を取り入れた建物といえば、神社や仏閣、茶室などのごく一部の建物を除き、現在建築されるほとんどの建物が欧米化しております。
 中には、洋室に和のテイストを取り入れた「洋和室」や「和モダン」といった日本独自の建築様式も新らたに生まれ多様化もしていますが、このような時代背景の中で建物と密接に関わる「あかり=照明」も同様に、私達の生活の中で、何らかの変化をしてきたのでしょうか?・・・そこで、今回は「日本のあかり文化」を、光と影の観点から今一度考えてみたいと思います。
 まず初めに、光と影の関係を簡単にご説明しますと、ある物体に1方向から光をあてた時、光が当たらない背面の暗い部分を「陰」と呼び、物体の投影を「影」と呼びます。この時、物体に対して、発光面が遠くにあって小さく、さらに輝度が高いほどハッキリした明暗が生じます。このような影を「本影」といいます。→(例:快晴の日の太陽光、配光角の狭い点光源のスポットライト…等)
 反対に発光面が近くにあって大きい程、ぼんやりとした影になりますが、これを「半影」「半陰」といいます。→(例:発光面の大きいシーリングライト、行燈の光…等)
 つまり、本影が生じる眩しいくらいの光も、その全てを拡散させるフィルターなどで広く覆ってしまえば、限りなく柔らかい陰影空間となります。日本の伝統的な家屋では、日中、明かり障子を介してこのような明るい半陰を居住空間に取り入れてきました。また日本はもともと気候的にも、年間を通してほとんどが高温多湿の為、太陽の直射光は水蒸気(湿気)という薄いフィルターを透して降り注ぐ事から、景色など霞がかった感じに見えます。このような光環境による、ぼんやりとした光景を日常的に見てきた日本人にとっては、おぼろげな見え方に高い感受性を持つ傾向があり、日本のあかり文化の基となる「半陰」が織りなす光環境にこそ「安堵感」や「癒し」といった感覚を持ちやすいといえます。
 では、西洋のあかり文化はどうでしょう? 例えばロウソク、日本では行燈のように和紙など拡散させる素材で光を主に覆いますが、西洋では数本の蝋燭を直接建てた燭台や、覆っても透明ガラスを使いあえて光の輝きを見せる方法を主に使われてきました。
 ひとつに、西洋と日本の「あかり文化」の大きく違う点は、光源の照らし方による陰影空間の創り方や感じ方に違いがあるといえます。
 では現在、洋風化する日本の建物の中で使われる「あかり」について、洋の良い点を取入れ、和の思いを形にするといった「あかり文化」の融合による相乗効果を期待していきたいものです。

 とはいえ諸外国に比べ、四季の移ろいや天候など、光の変化を享受し表現した言葉も多くあり、変化に順応する光の対応も繊細さを持ち、生活に豊かさを取入れてきました。単に西洋のあかりや流行りの器具を取り入れるのではなく、この日本の感受性の素晴らしさを継承していき「日本のあかり文化」を基に光環境の創造を忘れずにいたいものです。