放送日:2015年7月3日

「高齢者向けの光環境」

 目を背けたくなる程の光による眩しさを感じる事で、不快感が生じたり、物が見えにくくなる現象が起こります。これを照明用語で「グレア」といいます。
このグレアによる不快感などの光体験が長く続くと、眼精疲労やストレスとして蓄積されることになります。
 前回は、皆さんの生活の中にある照明器具などの「グレア」について、対処法などお伝えしましたが、「グレア」の光による害は、年齢や各々の生活環境によっても大きく変化することから、目の機能が低下する高齢者の方々に特に注意が必要となります。
 そこで今回は、グレアの対処法や、また高齢者の方々に適した「あかり」の環境とは何か考えてみたいと思います。

 人は歳を重ねるごとに体力が落ちてきます。これら体力の衰えと同じく、人の目も40歳を境にして、視力の低下や物が見えづらくなったりと衰えていきます。このような視覚機能の低下から、実は、物の識別に必要とされる明るさも年齢によって異なる事をご存じでしょうか?

 例えば、60歳では20歳の2、3倍の明るさが必要だといわれております。
ただ、これは読書や手元の作業をする場合に必要ということで、常に部屋全体を2、3倍の明るさにしなければならないということではないのです。
 高齢になると、均一に明るく、明暗の差をなくすことが望ましいとされております。そこで、お部屋全体を均一に明るくする天井照明などの全般照明を照度の高い器具に取り替えるといった安易な方法と取る傾向があります。しかしこれでは、器具自体の眩しさを増す結果となり、生活の中でストレスを伴う「グレア」を感じる頻度が高くなります。

 では、生活をしていく上で、どのような光環境が望ましいのでしょうか?

 確かに、ひと昔前の特別養護老人ホームやグループホームなどの高齢者向けの施設照明には、白く明るく均一に照らす照明が多くの施設で計画されてきました。
 しかしながら、明るいだけの照明から、雰囲気や快適性を重視する照明に移行しつつある現在では、こういった白く明るいだけの照明計画では限界が来ているように感じます。
 このことからも、1室1灯からなる全般照明のみで明るさを確保するのではなく、直接、光源が目に入らないセ―ドで覆われたスタンドライトやペンダントライト、また間接照明など、いくつかの柔らかな「あかり」で壁や天井、卓上などを照らす局部照明を多用して空間全体の明るさを確保する事が、年月の経過による生活の変化にも柔軟に対応できる、このような1室多灯からなる光環境が、これから高齢化社会を迎えることで、とても有効で必要となってくる照明方法といえます。

 昨今の高齢者向け施設では、明るさだけでなく、光に多様性を持たせた居心地の良い空間が求められるようになってきました。
 今後はより、光による環境心理の観点から、健康や心に影響を及ぼす、光の心理的・生理的効果に、関心が高まっていく事なるでしょう。