放送日:2022年5月27日

「高齢者に適した光環境とは・・・」

 目を背けたくなる程の光による眩しさを感じる事で、不快感が生じ、物が見えにくくなる現象が起きることを照明用語では「グレア」といい、この光による不快な光体験が、日々の生活において長く続くと、眼精疲労やストレスとして蓄積されていく事になります。
 このような光による「グレア」の害は、個々の生活環境の違いは基より、特に年齢によって大きく変化する事から、目の機能が低下する高齢者の方々に特に注意が必要となります。そこで今回、グレアの対処や高齢者に適した光環境とは何か考えてみたいと思います。

 人は歳を重ねるごとに体力が落ち、その体力の衰えと同じく、人の目も40歳を境にして、視力の低下や物が見えづらくなりと、様々な形で衰えを感じていきます。
 実は、このような視覚機能の低下により、物の識別に必要とされる適正な明るさも年齢によって異なる事をご存じでしょうか?・・・例えば、60歳では20歳の時に比べ、2、3倍の明るさが必要だといわれております。ただ、明るさが必要といっても、これは読書や手元の視作業をする場合に2、3倍の明るさが望ましいという事で、通常の生活において常に部屋全体を2、3倍の明るさにしなければならないという事ではないのです。
 新築や改装などの建築工事において、部屋全体を均一に、明暗の差をなくすほど明るくするシーリングライトなど全般照明による照度の高い器具に取り替えるといった安易な方法を選択される傾向が中にはありますが、これでは、器具自体の眩しさを増す結果となり、逆に高齢になると水晶体内の不純物によって光が散乱されやすくなり、眩しさにより敏感になるので、光源の眩しさが直接見える照明器具を使用された場合、長い生活の中で無意識に少しずつストレスを伴い「グレア」を感じる頻度が高くなります。

 では、生活をしていく上で、どのような光環境が望ましいのでしょうか?
 
 ひと昔前の特別養護老人ホームやグループホームなどの高齢者向けの施設照明には、白く明るく均一に照らす照明が多くの施設で計画されてきました。
 しかしながら、年齢による身体機能の変化に寄り添い、また雰囲気や快適性を重視する照明に移行しつつある現在では、こういった白く明るいだけの照明計画では限界が来ているように感じます。そして、2世帯住宅など異なる世代が同居するような場合でも、1室1灯からなる全般照明のみで明るさを確保する照明方法ではなく、年月の経過による生活の変化にも柔軟に対応するため、直接、光源が目に入らない照明計画の基、セ―ドで覆われたスタンドライトやペンダントライト、また間接照明など、いくつかの柔らかな「あかり」で壁や天井、卓上などを照らす局部照明を多用して空間全体の明るさに自由度を確保する1室多灯からなる光環境こそが、これから高齢化社会を迎えることで、とても有効でかつ必要となってくる照明方法といえます。

 昨今の高齢者向け施設では、明るさだけでなく、光に多様性を持たせた居心地の良い空間が求められるようになってきました。
今後はより、光による環境心理の観点から、健康や心に影響を及ぼす、光の心理的・生理的効果に、関心が高まっていく事なるでしょう。