放送日:2018年4月27日

「続・光のおもてなし」

 前回は、心の日本文化のひとつ“おもてなし”の演出に光を用いた千利休の茶の湯の教えや茶室における光の演出効果のお話などお伝えしましたが、今回は、人工の電灯照明を用いた現代の“光のおもてなし”とはどんなものになるのか?と考えてみたいと思います。

 さて、現代の光、電灯照明を用いた「光のおもてなし」というと、先進的な技術を用いて、作為的な演出を行うようなものをイメージされる方もいらっしゃると思いますが、そういう事ではなく、行燈の光や自然光を利用していた千利休のいた時代とその本質は変わらず、まずは、大切な人や客人をお招きする際、その方々のことを思い快適に過ごして頂けるような環境づくりをしつらえ、それらに適した光環境の設定を準備しておくことが“光のおもてなし“に大切なことと考えます。
 確かにLED照明に代表されるデジタル光源によって、千利休の時代とは比べものにならない程、より繊細な光環境の設定が可能になっています。季節や天候、時間、その空間に集う人の年齢、性別、職種など、様々な場面や要素に応じた、極め細やかな心を込めた「光のおもてなし」の演出を実現することの出来る機能はあります。しかしながら、これら光の本質を理解してどう扱うかは、今も昔も変わらず、使い手の意識により表されます。

 季節や天候、時間帯に応じて、適切な明るさ感や光色をしつらえる事はもとより、お招きする方の年齢や性別、趣味・趣向などに配慮することも大切な要素といえます。
 
 例えば、高齢者になると高い割合で、何らかの形で白内障などの症状を持っているといわれ、物がかすんで見えづらくなる、光がまぶしく感じられる、暗いところでは物が見えにくくなるなどの特徴が挙げられます。また、作業面などの明るさは20歳を基準にすると40歳を起点に10年ごとに約2倍、3倍と必要とされる明るさ感が高くなります。その為、それらを考慮した光環境の設定が望まれます。
 しかしそれは、ただ部屋を全体的に明るくすれば良いというわけではなく、例えば、会食の時など、テーブルにお料理が置かれているとします。そのお料理を照らす卓上への光と周囲からの光が調和を図らず混ざり合うと、対象物の彩度が下がり見えにくくなるといった現象が起きます。この場合の対応としては、卓上のお料理を照らす光をやや強めにする反面、周囲の照明を適度に控えた明るさにすることで相対的に周辺光の散乱が減り、お料理を華やかに引き立て見やすくなります。このような光による配慮を、様々ある場面においても、その時々に必要な光環境に創意工夫を加味することで、優しく思いやりのある“光のおもてなし”を実現できるのではないかと考えます。