放送日:2017年8月11日

「これからの住宅照明」

 今回は「これからの住宅照明」と題しまして、今後のライフサイクルの変化に対応した健康的な生活をおくる為の住宅照明のあり方について、考えてみたいと思います。

 我々の暮らしを日々照らしている住宅照明は、ただ部屋を明るくするだけのものではなく、そこに住む人の気持ちを明るくし安らぎや安堵感をもたらします。

 WHO世界保健機関の健康の定義によると「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう。」とあります。つまり、身体だけでなく精神的にも満たされることが必要であるとしている訳です。このことからも人の心理を左右する「あかり」の役割は住環境においても高いと考えます。
 照明は単に空間を明るくするだけの道具でなく、生理心理や人の行動に大きな影響を与え、少なからず健康維持や回復力を高める効果があることから、生活行動を妨げるような光環境でストレスを与えることなく、その照明効果を有効に自ら活用することは使用されるすべての人にとっても賢い選択といえ、正しい情報を基にさらにその効果を上げていく事はとても重要なことといえます。
 
 戦後の高度成長期以降、各照明メーカーもCMなどで明るさを謳い、照明の明るさに豊かさを求める傾向が続いた時代がありました。住宅照明においても、その傾向は根強く残り部屋の照明は明るい方が良いといった考え方が何の疑問も持たずに定着してきました。しかしながら、現在、一般照明においても主流となりつつあるLED照明に生活光源が変化する流れの中、光が人に与える影響についての研究が多くなされ、その結果、このような明るすぎる光環境に警鐘を鳴らし、快適に過ごす為に本来大切な光環境とは何か?と真剣に考え、これからの人と照明の有り方について見直される動きが高まっているといえます。
 
 さて、これからの住宅照明として注目されているLED照明ですが、消費電力の少なさや長寿命であるなどの特徴以外にも、家族のライフスタイルに柔軟に対応できる長所がある事をご存じでしょうか。例えば、結婚して夫婦2人だけの家庭に子供ができて、家族が増えたことで電力消費量は当然増えていき、子供の成長によってもエネルギー消費が増加する傾向にあるようです。また、若者と高齢者では必要な明るさが異なります。
 このように、ライフサイクルという家族の時間軸の変化によって必要な照明は変わってきます。さらに、生活シーンや家族のライフスタイルの違いによっても求められる照明は違います。こういった長期間の変化から、生活シーンによる違いまで幅広く対応できるのが様々な機能を持つLED照明なのです。 
 しかしながら、調色調光機能など優れた特徴があっても、その良い特徴が活かされていないLED照明の現実を感じます。確かに、従来光源を上回る特性も多く、長寿命で消費電力も抑えられる省エネ性の高さや、幅広い機能性の高さによる演出方法の豊富さなど、一般的にも広く認知されるようになりました。しかし、それらの光環境が我々の生活に与える本来の働きについて理解せず使用し続けた場合、その省エネ性や機能性を活かしきれず、得られるはずの豊かさへの可能性を閉じているように感じます。

 これからの住宅照明においては、表面的な豊かさではなく、人が快適に過ごすことのできる「あかり」とは本来は何か?・・・と、もっと深く考え、照明業界だけでなく一般ユーザーの方々にも広く認知して頂く必要性を強く感じる次第です。