放送日:2018年5月18日

「陰影を楽しむ」

 今回は「陰影を楽しむ」と題しまして、これからの照明空間の在り方など、お伝えできればと思います。
 古来の日本建築では、太陽からの強い日差しを軒の出を深くすることで、直接室内に入れることがないように作られ、庭の地面や広縁などに反射した適度な光を室内に導いていました。その適度な光を、障子に透過させることで、さらに柔らかな弱い光となって室内に広がり、そのほの暗い環境で生まれる陰影の中から、日本人の細やかな感性が創り出されたとされ、自然を受け入れ順応しながら、その自然な光環境を繊細な感性により生活に活かされてきたことは日本人にとって忘れてはならない大切な文化のひとつといえます。

 しかしながら現在、日本の光環境をみると、高度成長期以降の蛍光灯の普及により明るさを求め続けた結果、蛍光灯の白い光で夜を昼間のように明るく照らす行為が、いつからか照明はとにかく「明るく照らす」ものが良いといった、間違った捉え方が定着してしまった為に、明るすぎる光環境となってしまい、震災以降省エネの機運が高まる中においても、未だにその名残は根強く残っている現状にあります。
 我々日本人は古来より、適度に柔らかな光を建築の中に取り込みながら、そこから生まれる陰影の中に「安堵感」や「癒し」といった心の豊かさや美しさを演出してきました。
 今こそ、こうした日本人の持つ光への感覚を思い出し、明るさ至上主義といった間違った既成概念に囚われず、適切な照明とは本来どうあるべきかを考え、微妙な光への感受性を大事にした心豊かにする光環境づくりが今後より多く求められていくことを願います。

 光は暗い所があってこそ明るく感じます。全てを照らすのではなく、必要な所に必要な光をつくり、ほの暗さと明るい所を創り出すことで適度な陰影が生まれ、明るさをより効果的に演出することができます。また自然光を効果的に取り入れつつ、天候や時間により明るさの調整や光の色を変化させることで、よりその効果は高まります。
 例えばこのような方法により、様々な情報が溢れるストレス過多で余裕のない現代の生活の中でも、夜間、刺激の強い昼間のような明るい白い光に囲まれる環境ではなく、もしほの暗い微妙な明るさ感を味わうことで、「安堵感」や「癒し」といった感覚に気づき、その陰影を楽しむ心の余裕が持てたとしたなら、より豊かな生活環境の実現に近づくことと考えます。
 
 震災以降、今の明るすぎる光環境に異議を唱える動きは照明業界では高まっているものの、未だに一般的な認知・理解には至っておりません。そこで目に見える環境を徐々にでも残していき利用者の方々に理解と共感を得られるよう、適正な光環境の啓蒙に今後も注力していければと思います。